偽りの先生、幾千の涙
「私、帰ります。
警察とかマジ嫌なんで。
帰る方がマシっていうか、とにかく帰りまーす。」
あたしは自然に背を向けて、ドアに手を伸ばす。
もしここで逃げれなかったら犯罪者、逃げれたら逃げれたらでヤバい人だ。
このマンションはセキュリティと景色だけは抜群で、他人は入ってこれない。
住人以外は警備員に止められるし、友達の家に遊びにくるにしてもそこで飛び降り自殺なんてしない。
入居者なら事前に説明される事なのに、あんな質問をしてくるなんて何か裏がある。
ドアノブを握る手に力が入る。
帰れると確信した瞬間だった。
「もう自ら死のうとか思うなよ。
でも死にたくなったら、話ぐらい聞いてあげるから家に来い。」
不思議な感覚がした。
最初に走ってきた時とも、さっきまでの会話とも微かに違う雰囲気だった。
気になったが、今はここから出た方がいい。
「…ありがとう。」
最後の言葉がお兄さんに届いたのかは分からない。
でもお兄さんはその後何も言わなかったし、何もしてこなかった。
自宅で服とか髪とか洗いざらいチェックしたけど、盗聴器とかは付いていない。