偽りの先生、幾千の涙
そして教えて。
君の事、君の父親の事、母親の事、あの日の事
君の口から聞きたい事は山程あるんだよ。
「…ありがとうございます。
あの…逆に伊藤先生のことを伺ってもいいですか?」
榎本果穂の目の色が変わった。
この子、俺を疑っているわけ?
何処まで気付いているのか知らないけど、それは面倒な話だ。
「俺のこと?」
「はい。
先生が私達のことを知らないように、私達も先生のことを知らないんです。
自己紹介はしてくれましたけど、もう少し知りたいです。
1年間お世話になる方ですから。」
見ていて寒気がするぐらいの冷たさを榎本果穂は纏っていた。
この子、一体何者?
嘘で包まれた心の奥に何を抱えているというのだ。
「いいよ。
何か気になる事でもある?」
「はい。
伊藤先生はどうして水仙女子の先生になろうと思ったんですか?
伊藤先生なら、もっとお給料を出してくれる高校や、偏差値の高い学校でも雇ってもらえると思いますよ。
他の高校のことは私にはよく分かりませんが、伊藤先生にとって…その…言い方が適切かは分かりませんが、水仙女子学院は少し面倒ではありませんか?」
そこ聞いちゃう?
偏差値の高い学校にも、給料の良い学校も興味ないんだけどな。
っつかここ給料はかなり高いけどな。