偽りの先生、幾千の涙
さて、どう答えようか…
「そうだな…こんな事言ったら怒られるかもしれないけど、ここが雇ってくれるって言ったからここにしたっていうのが一番の理由かな。
社会の先生って意外と人気というか、なんていうか…社会の先生になりたい人って多いんだよ。
でも英語の先生みたいに沢山いらないから、枠が多いわけでもない。
意外と就職するの厳しいんだよ。
そんな中で応募したら、採用してもらえたんだ。
だからここに来た。」
多分、そもそも何故ここの採用試験を受けようと思ったかを聞いているんだと思うけど、それは答えてあげない。
そこまで聞いてきたら、募集があったからって答えるけど。
「そうですか…先生って人気の職業なんですね。」
「そうだな。
なるの難しいし、なれなくて諦める人も結構いたりする。
俺の友達もそんな奴いたな…」
友達とかいなかったけどな。
「先生のお友達も?
大学や高校のお友達ですか?」
「ああ。
高校の時の友達も、大学の時の友達も。」
刹那、榎本果穂が表情を微かに変えた。
俺、大事な事を言ったか?
「伊藤先生、大学は確か東慶大学ですよね?
高校はどちらだったんですか?」
「高校?
皆が知らないようなところだよ。
言っても分からないと思うよ。
そんな賢いところでもないから。」
家の事情で高校は行っていなくて、大検を取って大学に入ったんだけどな。
一応、就職する際には経歴を誤魔化して、高校も出ている事にはしているけど、出身者がいたら困るから田舎の私学の名前を借りた。
勿論、行った事もない高校だ。