偽りの先生、幾千の涙
午後の授業も終わって、ホームルームも終わる。
教室の掃除をして、補講で教室を使う子達が続々と入ってくるのを見ながら、捕まる前にとっととそこから離れようとした。
でも伊藤が職員室に戻ってしまった今、そう上手くはいかなくて、結局は補講が始まるまで教室に拘束されてしまう。
こんな時に限って花音ちゃんもいなくて、やっと解放されると図書室へ急いだ。
多分、花音ちゃんは図書室で勉強をしている。
道すがら挨拶してくる子に愛想を振りまいて、図書室を見渡すと、花音ちゃんは1人で勉強していた。
私は誰の邪魔にもならないように、静かに花音ちゃんへ近づき、その肩を軽くポンポンと叩いた。
花音ちゃんは肩をピクッっと動かすと、シャープペンシルを置いてこちらを振り返る。
私が来たと思っていなかったのだろう、私を視界に収めた瞬間、目を輝かせて立った。
「果穂ちゃん!
どうしたの?」
私は人差し指を立てて、自らの唇の前に近づける。
花音ちゃんは気が付いたのか、周りにいる生徒達に慌てて頭を下げる。
それが終わると、私は花音ちゃんが使っているノートの端に「時間ある?」と書いた。
花音ちゃんは頷くと、荷物を纏めて図書室を出る。
廊下に出ると、図書室の静けさがなくなって話しやすい。
「お勉強している時にごめんね?
花音ちゃんも今日面談でしょ?
それで、それまで一緒にいたいなって思って。
あと、個人面談ってなんか緊張するから、少しお話ししたかったの。」
「本当に!?
果穂ちゃんから来てくれたの嬉しい!」
そういえば、私からこんな風に声を掛ける事は数少ない事だ。