偽りの先生、幾千の涙


答えるギリギリまで、私は頭を働かせる。


調べたい事は沢山ある。


でも花音ちゃんにお願い出来る事で、かつ優先順位の高い事となると限られてくる。


「面談する応接室に何があったか教えてほしいの。
例えば、ノートパソコンがあったとか。」


「伊藤先生の持ち物って事?」


「うん。
そういう事。」


「分かった。
ちゃんと見て、面談終わって部屋を出たら、すぐに果穂ちゃんに言う!
多分、そうじゃないと忘れちゃうし。
って、もうそろそろ時間だ。」


花音ちゃんはスマホを、私は腕時計を見る。


「本当だ。
7分前だね。
部屋の前まで一緒に行くよ。」


「ありがとう!
…そういえば果穂ちゃん、いつも時計してた?」


「これ?
今日はたまたま付けてきたの。
お父様に貰ったものなんだけどずっと使ってなくて。
昨日、部屋の掃除をしている時に見つけたから、今日は時計していこうと思って。」


父親に貰ったものしか家になかったのが屈辱だったけど、昨日に思いついたものだからしょうがない。


時間は正確に測らないと意味がないし、だからって掛け時計やスマホをチラチラ見ながら面談をするのって相手に失礼でしょ。


だから今日だけ、我慢して腕に巻いているわけ。


そんな会話をしながら、花音ちゃんを送り届ける。


そこに着く頃はちょうど5分前で、私は笑顔で花音ちゃんを送り出した。



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