偽りの先生、幾千の涙


花音ちゃんが出てくるまで、私はドアの前で本を読んでいた。


少し奥まったところにあるためか、人気がなく落ち着く事が出来る。


閉められたドアの向こうにいる花音ちゃんと伊藤の会話は聞こえないけど、今この時間は平穏と呼ぶに相応しい。


こんなに心穏やかに過ごせるのもいつ以来だろうか。


壁と壁の間に挟まれた、狭くて少し暗い空間


ちょっと向こうにある職員室とは目と鼻の先にあるのに、周辺の音は遠くに聞こえる。


静かすぎず、でも煩くない心地良い場所だ。


一日中ここにいてもいいかもしれない。


そんな幸せを味わっていられるのも束の間、花音ちゃんは予定時間より少し遅れてドアから出てきた。


多分、伊藤から今の私は見えないはずだ。


私は花音ちゃんに手を振りながら、こちらに戻るのを待つ。


「花音ちゃん、おかえり。
どうだった?」


「果穂ちゃん、ただいま!
えっとね…机っていうかテーブルの上に、ちょっと分厚いファイルとタブレットがあった。
ファイルは見てたけど、タブレットは触ってなかったよ。
あとは…何もなかった。」


触っていないタブレット端末…気になるかも。


「ありがとう、花音ちゃん!
私、あと数分したら行くけど、どうする?
図書室に戻る?」


「そうする。
果穂ちゃんを見送ったらいくよ。」


私は花音ちゃんと少しお話ししてから、予定時間のほんの少し前にドアをノックする。


花音ちゃんの気配がなくなるのを確認してから、失礼しますと言って、ドアを開けた。



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