偽りの先生、幾千の涙
「早速だけど、榎本さんは進路で困ってる事とか…なさそうだね。
どの教科も完璧かな?」
「そんな事ないですよ。
まだ4月ですよ、不安だらけです。」
本当の事を言うと、不安なんてない。
水仙の授業が簡単すぎるっていうか、日本の教育水準が甘すぎるというか。
とにかく特に何も心配していない、どころか授業は基本的に退屈。
「本当に?
こんなによく出来るんだから、何処の大学も心配ないよ。
それより…日本の大学ばかり志望しているけど、海外の大学とか興味ないの?」
海外の大学?絶対嫌だ。
海外の教育機関に興味がないわけではない。
本気で勉強がしたいなら、日本に留まっている必要性はないもの。
でも私はそんなに勉強熱心じゃないの。
勉強は好きではないけれど、嫌いでもない、ただ得意なだけである。
だからそこまでして学ぼうと思わないし、それに…海外には父がいるから行きたくない。
「…ないわけじゃないですけど、あまり想像が出来ないと言いますか…特には考えていないです。」
父親のことを思い出したせいで、私は機嫌が悪くなる。
いつもは隠しきれる私だけど、今は家族について一言でも話したら表情に出そうだから、そこには触れずに答える。
なのに伊藤は余計な事しか言わないの。
「それは勿体ない。
…準備するなら今が最後だよ?
お父様もアメリカに住んでおられるし、良い選択肢だと思うよ?」