偽りの先生、幾千の涙
信じられない。
私は沸々と湧いてくる怒りを鎮めようと、無理矢理表情を作る。
「そこまで仰って下さるなんて…ありがとうございます。
でもやっぱり私は日本で勉強したいです。
海外で学ぶなら、留学という選択肢もあります。
せっかくのご提案、無下にして申し訳ないです。」
父親の話はしたくないから、違う方向に話を持って行けないか考える。
そんな事に気を取られていた私は、この時の伊藤の顔なんて真面に見れていなかった。
「そっか、それなら日本で受験する方向のまま、という事でいいね。
あとは、何か相談しておきたい事ある?」
「そうですね…
相談と言いますか、質問なんですけれど、伊藤先生は高校3年生の時は毎日どれぐらい勉強していましたか?」
「俺?
俺はね…わりとずっと勉強してたタイプ?
だから…全然役に立てないけど、どれぐらいかは分からないな。」
私は当たり障りのない質問をする事で、私の中の余裕を取り戻そうとした。
あんな感じで質問ばっかりされていたら、今日の私はおかしくなってしまいそうだ。
適当な会話をする事で、私は怒りを抑える事に成功した。
それでも意味のない会話を私は続ける。
さっきまで忘れていたけど、私は伊藤を試しに、いや、確認しに来たんだ。
こんなところで自分のペースを崩しているわけにはいかない。
あとはいつ本題に入るか、そのタイミングを上手く掴むだけである。