偽りの先生、幾千の涙
給料が良かったっていう言い訳はさせない。
そんなありきたりな理由じゃないと分かっているし、そう答えられたらつまらない。
まさかとは思うけど、女子高生に囲まれたかったなんて事もないだろう。
だってその顔ならどこ歩いても振り向いてもらえるでしょ?
あんな出会い方と今の環境がない状態で街中で見かけたら、私でも数秒ぐらいは見るわよ。
というか、伊藤はあの軍団に明らか嫌悪感を示している。
何かの邪魔になっているはずだ。
そういう事は先に言っておいた上で、答を待つ。
正解を聞き出せるわけがないのは百も承知だけど、推測の材料ぐらいは出てくるかもしれないわ。
「そうだな…こんな事言ったら怒られるかもしれないけど、ここが雇ってくれるって言ったからここにしたっていうのが一番の理由かな。
社会の先生って意外と人気というか、なんていうか…社会の先生になりたい人って多いんだよ。
でも英語の先生みたいに沢山いらないから、枠が多いわけでもない。
意外と就職するの厳しいんだよ。
そんな中で応募したら、採用してもらえたんだ。
だからここに来た。」
そもそもどうしてここに応募したのか聞きたかったのだけれども、この調子なら、「応募があったから」の一言で済まされそうだ。
ここが雇ってくれるって言ったから…
先生になりたい人の事情とかは知らないから、後半の言い訳は真実かどうか分からないが、ここしか雇ってくれなかったって事はないでしょう?
だって演技力も教え方もなかなか上級よ?
これで就職が厳しいというなら、水仙女子の他の先生の殆どは路頭に迷う事になる。
ヒントがこの中にあったかどうかは不明だが、伊藤が言った事は嘘だろう。