偽りの先生、幾千の涙
「そこは逆に、俺も教えたくないな。」
そう言われたら、私も聞きようがない。
他にも色々聞きたいけど、聞く事によって向こうに質問されるリスクも高まる。
私は俯くフリをして時計を見る。
時間もちょうどいい頃だし、そろそろ潮時のようだ。
「そうですか。
それは残念です。
…ごめんなさい、私、時計は見ていなかったんですけれど、もうそろそ時間ですね。」
私は腕時計を伊藤に見せる。
私の時計ではもうこんな時間だと知らせるためだ。
「本当だ。
俺も時計見るの忘れてたよ。
言ってくれてありがとう。
じゃあまた休み明けに。」
確かにこの部屋に時計はない。
どうして外しているのかは分からないが、これも伊藤の狙いであるような気がしてならない。
「はい。
今日はありがとうございました。
失礼いたします。」
お互い、外面の微笑みでこの場を終わりにする。
私も伊藤もまだ踏み込んだ事は出来ない。
私は優等生でいる必要があるし、伊藤にとっても今は都合が良いのだろう。
と言っても、流石に今日は疲れた。
私はとっとと部屋を出て、一息吐きたかった。