偽りの先生、幾千の涙
「なんかあの先生、怪しいから。
真っ当な感じで先生になったと思えないの。
弟さんもあんな感じだし、少し気になっちゃって。」
断言はしないけど、花音ちゃんの親が動いてくれそうな事を言う。
自分の娘の担任が”怪しくて真っ当でないかもしれない若い男”って聞いたら、花音ちゃんの親は血相を変えて調べてくれるはずだ。
「確かに弟さんは怖かったね。
今晩、お父さんとお母さんに話してみるね。」
「お願いね。」
伊藤の身辺調査を私がやるには限界がある。
子供に出来ない事は大人に任せ、私は私が出来る事をやる。
花音ちゃんが言っていた、タブレット端末。
私が入室した時にはなかった。
花音ちゃんの面談から私の面談が始まるまで、伊藤は部屋を出ていない。
という事は、その間にソファの後ろか何処かに隠したのだろう。
私の目の前には置きづらかったという事だと推測すると…タブレット端末を調べる必要がある。
それは学校にいる私の仕事だ。
その前に、まずはゴールデンウィークだ。
校舎を出た私は花音ちゃんと別れ、駅に向かって歩く。
短い休暇を前に私は思う。
もうすぐ…あの日がまたやって来ると。