偽りの先生、幾千の涙


私が泣かないようになってから、父親は参加しなくなった。


最初は2回に1回は来ていたが、ここ数年全く来ていない。


父親が来ない事はどうでもよかった。


でもやはり疑問もある。


仕事と言っているが、彼はちゃんと母親に手を合わせているのかと。


「あら、皆川さん。
御無沙汰しております。
今年は参加出来ると伺って、私、嬉しかったのですよ。
でも優君が来られないのは残念でしたわ。」


聞き覚えのない声に振り返ると、見覚えのない男性が立っている。


40代ぐらいの白髪混じりの痩せ気味の男性だ。


「最近ずっと来れていなくてすいません。
仕事や子育てに忙しくて…といったら、言い訳がましいですね。
でもやっと来れました。
今日は皆さんと一緒に手を合わします。」


皆川と呼ばれた男性は会長に一礼すると、視線をこちらに向けた。


目が合い、私も一礼すると、向こうも頭を下げた。


そしてこちらに近寄って来ると、また軽く頭を下げる。


「お嬢さんは毎年こちらに出向いているのかな?」


「はい。
私は毎年ここに来ていています。」


「そうですか。
貴女の大切な方はお喜びでしょうね。
毎年きちんと手を合わせてくれる方がいらっしゃって。
私なんかもう10年以上来ていなくて、妻に申し訳ないよ。」


「大事なのは来る事ではなく、亡くなった方を大切に思う事ですよ。
何年来ていなくても、こうしてまた来て下さる旦那様がいて、奥様は幸せな方てすよ。」


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