偽りの先生、幾千の涙


小さな私は喪服の意味が分からず、ただただ皆が真っ黒だと思った。


どんよりとした雰囲気の中で、皆が黒い服を着ているから、余計にそう思ったのかもしれない。


車に乗せられた私が向かったのは斎場だった。


そこにも真っ黒な服を来た人ばかりで、何が始まるのか分からない私だけがキョトンとした顔をしていた。


ただ、周りの大人は涙を流したり、暗い顔で座っていたりしていたから、楽しい事が起こる事はずかない事ぐらいは理解が出来た。


私はその中で、父親を探した。 


父親が待っているから行こうと言われたのに、父親の姿は見えなかった。


私は父親を探そうとしたが、皆の顔がよく見える椅子に座っているよう指示される。


もうすぐ来るからと周りに言われたので、仕方なく座っていると、お通夜が始まった。


その時の私はお通夜が何か分かっておらず、代理で喪主を務める叔父と次々とお線香をあげる人々を交互に見ていた。


母親が死んだのだとハッキリと聞かされたのは、お通夜の後だった。


結局来なかった父親の代わりに喪主を務めた叔父に言われたのである。


私は瞬時にその言葉を理解したが、心が拒否した。


ついこの間まで大きなお腹を撫でながら、優しく微笑んでいたのだ。


私と一緒に歌を歌ったり、絵本を読んだりしてくれていたのに、もう母親は私の目の前に現れてもくれないのだ。


暫くの間、期間にしたら半年以上程、私の生活は空っぽで、私は今でもその頃の事をあまり思い出せないでいる。



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