偽りの先生、幾千の涙
side by 先生
起きたのは昼になる前だった。
鳴り響く電話の音に起きざるをえなかったのだ。
「もしもし…」
「おはようございます。
こちら1階エントランスでございます。
伊藤様にお客様がお見えなのですが、1階まで下りてきていただけないでしょうか?」
客?父さん…は来ないから、海斗か。
「分かりました。
すぐに行きますので、少し待ってほしいと伝えて下さい。」
寝癖で暴れている髪をニット帽で隠し、ジャージのまま家を出る。
階段を下りてエントランスに行くと、海斗が警備員と話してる。
「この前はさーせん。
ここまでセキュリティがキツいって知らなくって…あ!兄さん!」
海斗が大きく手を振って俺を呼び寄せる。
この前とは違い、制服らしきものをキチッときて、髪も黒くしている。
俺は手続きを済ませると、海斗を家に連れていく。
「マジでこのマンション鬱陶しいんだけど。」
入った瞬間、ウィッグを外しながら言い放つ。
ネクタイも外して、Yシャツのボタンを2つ開けて、ジャケットは脱ぎ捨てる。
いつもの海斗に戻ると、俺は電機ポットのスイッチを押してから聞いた。
「今日は何しに来たんだ?」