偽りの先生、幾千の涙
「暇だから来た。
兄さんも今日は暇だろ?」
「お前と違って暇はないんだよ。」
「さっきまで寝てたくせに。」
「煩い。
用がないなら帰れ、馬鹿。
家に誰もいないからってフラフラこんな所まで来て…」
俺はカーテンを開けて、海斗がまた段ボールに触れようとするのを阻止する。
どんよりとした灰色の空が広がっていて、今にも雨が降りだしそうだった。
「父さんは何時に戻るんだ。」
「さあ。
俺、行った事ねえし。」
まるで自分の家のように寛ぐ海斗に茶を出してやる。
ありがとうと軽く言った海斗は、一口飲むと逆に聞いてくる。
「っつか兄さんは行かなくていいわけ?
榎本果穂に近付くチャンスだろ。」
「榎本果穂に顔を知られているから行かないんだよ。
っつかお前こそ行けよ。」
「行くわけねえし。」
今日は俺達の人生を変えた日だ。
5月4日、とある病院で爆発事故が起こった。
何もかもが解決しないまま終わったが、俺達は知っている。
犯人がいる事件だ。