偽りの先生、幾千の涙
犯人だって本当は分かっている。
でも現場には何も残っておらず、犯人も色々と握りつぶした。
全てが分かっているにも関わらずだ。
「っつかさ父さんが行く理由も分からねえんだけど。
毎年行ってるんだっけ?」
「そうだろ。
毎年5月4日はいないんだから。」
「それなら兄さんじゃなくて父さんが榎本果穂に近付けばいいじゃん。
毎年顔合わせてるんだろ?」
「父さんには父さんの仕事があるだろ。
それに俺だって復讐したいんだ。」
海斗がどう思っているかは知らねえけど、俺だって犯人が憎い。
今も旨いもの食って、高い家に住んで、のうのうと暮らしている…榎本悟郎。
何があっても絶対に許さない。
俺達が味わった苦しみを全部叩き返してやるんだ。
「父さんも兄さんもよくやるよな。
俺、そんな面倒な事は絶対に思い付かねえよ。」
「お前…本当にこの件に関わろうとしないよな。」
「だって俺、興味ないし、今結構幸せだし、それで良いじゃん。
そんなドラマみたいな事したって、本人は帰ってこねえんだよ。
やるだけ無駄じゃね?」
「無駄じゃねえよ。
俺と父さんにとっては。」