偽りの先生、幾千の涙


「それより兄さん、最近調子良いの?
父さんの機嫌がすげー良いんだけど。」


「調子が良いっていうか…まあ榎本果穂がどんな子かは分かってきた。
データにはない、あの子の本性っつうか。」


榎本果穂はとても賢い子だ。


勘が良くて、感情抜きで理論的に物事と向き合える。


もう少し馬鹿な子だったら、俺もやりやすかったんだけど、骨の折れる仕事を選んでしまった。


それに警戒心が強いのか、隙が殆どない。


強いて言うなら、親の事ぐらいだが…そのあたりはまだ詳しく知れていない。


話してくれる日が来るとは思えないが、そこにヒントが隠れていると思う。


…俺もこんな事をしながら言うのもあれだが、榎本果穂も母親を失った被害者だ。


母親の死で榎本果穂の人生はきっと変わってしまったのだろう。


でもきっとそれだけではない。


母親が死んでしまった事だけが、彼女の闇とは思えなかった。


そこが知れたら、榎本悟郎を陥れる効果的な手立てが見えるかもしれない。


「へー。
兄さん達やっぱりマメだね。
俺、女の子口説く以外でそんな熱心になれないわ。
…そういえば、あの子は?
国木田花音ちゃん?」


「ああ、あの子?
使えるとは思うけど、国木田花音自身について調べないといけない事は特になさそうだな。
あの子の家の事とかは父さんが調べてくれると思うけど…」


「そうじゃなくて!
どんな子?」



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