偽りの先生、幾千の涙
そんな事のために一々電話するなって叫びたくなるのを我慢する。
苛立ちを隠して澄ました顔で30分電車に乗る。
そこからバスに乗って更に15分すると、仰々しい門とレンガ色の大きな校舎がみえてくる。
門の前には何台もの車が連なっていて、そこから紺色のセーラー服を着た少女達が門の中へと消えていく。
勿論、私も同じ制服を来ている。
そろそろ気を引き締めないといけない頃だ。
「まあ果穂様!
お久しぶりです!
お元気ですか?」
「果穂様、ごきげんよう!」
「おはようございます、果穂様。
春休みはお会いできなくて淋しかったんですよ。」
黄色い声と共に、車から出てくる少女達が私を囲むように集まってくる。
大半は名前の知らない人達だ。
「皆さん、お久しぶりです。
あの…いつも言っているのですけれど、果穂様と呼ぶのは止めていただけませんか?
私、そんな風に呼んでいただける程立派な人間じゃないですよ。」
「何を仰ってるんですか?
果穂様は私達の憧れなんですよ。」
だからって頭おかしいだろって言いたくなる。
でも私は笑顔でこう言うのだ。
「そんな、憧れだなんて。
恥ずかしいですよ。
それより皆さん、春や…」
私の笑顔が崩れた。
人だかりの隙間から、人が転けるのが見えた。