偽りの先生、幾千の涙
何とか手にした吊革を離さないように必死に掴まる。
吊革の真下にいない私は、斜めに手を伸ばしているため少し辛いのだ。
都心の駅は会社も多く、乗ってくる人も段々増える。
それでも朝の通勤ラッシュよりはマシだと思い、耐えるしかなかった。
今が何処の駅かは分からないが、自宅の最寄り駅まではあと15分ぐらいだろう。
溜め息を吐いて、脳を休ませる。
夜の闇の中で小さな光の数々が、何処を向くわけでもなく輝いている。
一つ一つは流れ星よりも早く消えてしまうけど、次々と新しく現れるから視界から消える事がない。
その様子をボーッと眺めていたら、奇妙な感覚に襲われた。
太股と臀部に纏わり付く生温い感触…最悪。
私は窓ガラス越しに犯人の顔を見る。
当たり前だけど、知らない人だ。
これであと10分以上電車乗ってるのは嫌だな、っていうか1分たりとも嫌だ。
途中で降りても着いてくる可能性もあるし、どうしようか…
考えているうちに電車が止まって、私がいる方と反対側のドアが開く。
降りる人もいるが、乗ってくる人の方が多くて、後ろの男との距離が詰まるのみになった。
早くここから離れたい、そう思った時だった。