偽りの先生、幾千の涙


這うように動いていた男の手が止まる。


何が起こるのか分からなくてじっとしていると、1分しないうちに男の手が消えていく。


電車は揺れ続けているのに、一体何があったのか。


少しして電車が止まった。


窓ガラス越しに犯人を見ていると、焦った様子で電車から出ていく。


助かったけど、何が起こったのかを冷静に分析していると、今度は違う意味での驚きが待っていた。


「大丈夫?」


聞き覚えのある声に首だけを後ろに向けると、伊藤が立っていた。


「伊藤先生?」


「あいつなら無理矢理降ろさせた。
もう大丈夫だよ。」


「は、はぁ…」


私はお礼も言わずに首の位置を戻す。


降ろさせたって、伊藤は何をしたの?


脅した?でもどうやって?っていうか本当に伊藤が助けてくれたの?


電車を降りるまで、私は伊藤と全く話さず、伊藤は私の後ろから離れなかった。


この短い間に起きた事は全て把握出来ているのに、呆気に取られたまま残りの10分間を過ごした。




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