偽りの先生、幾千の涙
私は当たり障りのない事を言って、その場から去ろうとした。
この一言で「これから気を付けてね、さようなら。」と言ってもらえると思っていた。
「分かった。
これからは遅くまで学校に残らないで、さっさと帰るんだぞ。」
「はい。
そうします。」
勿論、皆が帰らせてくれたらだけど。
「皆に引き止められても、ちゃんと断れよ。
それか誰かの車で送ってもらえ。」
出来ないような事を伊藤は言ってくる。
断るのも、送ってもらうのも、緊急時以外は避けるに決まっている。
でも…伊藤が本気で言っているっぽかったから、素直に返事をしてしまった。
「はい。
もしもの時はそうします。」
「ああ。
あと、これやる。
何かあったら連絡して。」
伊藤は鞄の中から小さなプラスチックの箱を取り出す。
パカッと音を立てて、箱が開けられると、一番上にあった紙切れを私に差し出す。
名刺だ。
「頂戴いたします。」
私は両手で受け取ると、上から順番に読む。