偽りの先生、幾千の涙
学校名と名前、電話番号とメールアドレス、至って普通の名刺だ。
「いただいてよろしいんですか?」
「ダメだったら渡してない。」
「そうなんですけど…」
他に持っている生徒は多分いない。
私は一通り見て、アドレスと電話番号を記憶する。
持っていると危ないから、家の机の奥底に仕舞っておかないといけない。
学校で見つかったら、流石の私でもファンに目を付けられる。
「ありがとうございます。」
だからって返すわけにもいかないから、受け取っておく。
使い方によっては便利かもしれないし。
「どういたしまして。
じゃあな。
無理するなよ。」
伊藤は階段へ続くドアを開ける。
ドアはキーッと音を立ててゆっくりしまった。
閉まると共に、階段を一段ずつ上がっていく足音も消える。
私はエレベーターのボタンを押して、名刺をもう一度眺める。
伊藤貴久と書かれた1枚の名刺を見て、私は複雑な気持ちになる。