あの日、あの桜の下で



「お見苦しい姿を見せてしまって、申し訳ありません。実は、俺の彼女の体育着が、何者かによって隠されたんです。俺のこの姿は、そんな卑劣なことをする奴らに対しての、抗議行動です。もしまた俺の彼女に対して、どんな些細なことであっても嫌がらせや陰口があったら、今度は俺の能力のすべてを駆使して報復するつもりです」


壇上に立った彼はマイクを通し、全校生徒に向かってそう宣言した。同時に、彼の体育着を着ていた私にも注目が集まっていることを、私は気づいていたけれど、そんなことは気にはならなかった。

私は脇目も振らず、壇上にいる彼を見つめ続けた。その時、私にできたことは、ただそれだけだった――。



その頃、彼は下校時にたびたび、私に付き添って少し遠回りをして帰っていた。
私も少し回り道をして、あの桜並木に立ち寄る。遊歩道沿いに置かれているベンチに並んで座って、しばらくおしゃべりをするのが、私たちのささやかな楽しみだった。


「尊くん。今日は本当にありがとう…」


蝉しぐれと桜の緑のシャワーの中で、この日の私は改めて彼にお礼を言った。
すると、彼はジッと私を見つめて唇を噛む。彼が何を考えているのか、気になった私が眼差しにその疑問を映すと、彼は口元を緩めた。



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