あの日、あの桜の下で


私のその想いが彼に伝わったのだろうか…。彼が腕を伸ばして、私を抱き寄せてくれる。


「俺のせいで、君にも辛い思いをさせてただろ?俺が君を好きにならなかったら、そんな思いをしなくて済んだだろ?」


どんなに嫌なことがあったとしても、彼を失うことに比べたら、。辛いことでもなんでもない。

私が首を横に振ると、頬を伝っていた涙が雫になって落ちる。
その涙を拭うように彼の手が私の頬をすくって、私の涙が溢れる瞳を覗き込んだ。

……それから、私たちは初めて唇を重ねた。

大好きな人に〝好きだ〟と思ってもらえることが、こんなにも切ない感情を伴うものだったなんて……、この時まで私は知らなかった。



次の日には、私のロッカーの中に体育着は戻されていた。

『俺の能力のすべてを駆使して報復する』
その言葉が効いていたのだろうか。恐れを抱いてしまうほど、彼の能力は驚異的だった

それ以来、私に対する嫌がらせもパタリとなくなって、私の高校生活の中でいちばん平穏な時間を過ごした。

穏やかな日々の中で、彼が将来の夢を語ってくれたことがある。


「俺、アメリカや日本だけじゃなく、世界を見てみたいんだ」

「世界中のいろんな場所を、見て回りたいの?」


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