あの日、あの桜の下で
彼の部屋の二階の一室は、勉強机とベッドと本棚があるだけのシンプルな部屋だった。でもそこは、全国模試で五十番以内に入ってしまう頭脳が生み出される場所だった。
それを物語るように、本棚やベッドのまわりには、いろんな分野の膨大な量の本が溢れかえっていた。
窓から入ってくる柔らかい光で、空中の埃がキラキラと輝き、室内はほんのりと暖かい。始めて来るのに、ずっと前から知っているような場所だった。
そこで、私たちは何も飾ることのない姿になって、お互いの想いを確かめ合った。
「俺、初めてで……よく分からないから。イヤだったら我慢しないで」
途中でそう言ってくれた彼に、私は笑ってみせた。
「尊くんでも、分からないことがあるんだね」
〝嫌〟どころか、彼が求めてくれるものには、私のすべてを投げ出してでも応えたいと思った。
そこには彼を特別視したり、私を敵対視したりする目もなければ、お互いの生い立ちの違いや漠然と見えない未来もなかった。
存在してたのは、ただ目の前にいるお互いだけ――。
目の前にいるお互いに、キスをして、触れて。思いの丈をぶつけ合った。