あの日、あの桜の下で
「それは……、小晴が小晴だからだ。理由なんてないよ」
そんな短い答えでは、私の疑問は晴れてくれず、そんな表情を読み取った彼は、言葉を続けた。
「……俺たちが出会ったあの日、あの桜並木で自転車に乗ってたら、突然君が目の前にいた。君だけは予測できなかった。予測をできないことなんて、初めてだった。それに、気を失って横たわる君を見て……、あんなふうに女の子をジッと見つめるのも、初めてのことだった。君を意識から消せなくなって、……そしたら同じ高校にいるって知って……、気づいたら好きになってた。もちろん君はとても可愛いし優しいし、頑張り屋なところも好きだけど。そんな目に見える部分だけが、理由じゃないよ」
彼の言おうとしていることが、私には響き合うようによく分かった。
「うん、私も同じ。尊くんを好きな理由なんてない」
私がそう言ったのを聞いて、彼は嬉しそうに微笑んで私の頬を撫で、キスしてくれながらつぶやいた。
「……こうなる運命だったんだ。きっと、前世から決まってたことなんだよ」
いつもは理路整然と現実を見据えてものを言う彼なのに、そんな非現実的なことを言った。
だけど、理由もなくこんなにも彼を好きなのは、本当にその通りだからだと思った。
私は、彼のその言葉に同意するように、彼の背中に腕を回して彼を抱きしめ返し、キスに応えた。