あの日、あの桜の下で
受験勉強
二人で過ごす甘い時間はあっという間に過ぎていき、高校三年生になっていた私たちは、夏休みを過ぎたころからゆっくり会うこともできなくなった。
特に、異質なほどに成績優秀な彼への周囲の期待は大きく、彼もこれに応えなければならないようだった。
あの桜並木のベンチに座って抱き寄せてくれても、言葉が少なくなった。時には憂いを含んだ表情で、考え込んでいることもあった。
何か悩んでいたり、困ったりしていることがあれば、彼の力になりたいとも思ったけれども……、何事も完璧な彼に解決できないことを、私が解決できるわけがない。
私が心配そうな顔をすると、彼は心配させまいと笑顔を返してくれる。そして、抱きしめてキスをしてくれる。
だけど、その中に潜む〝哀しさ〟のようなものを感じ取って、私の心はいつもキュッときしんで痛みが走った。
そして、ようやく彼が重そうに口を開いて、その心にあることを打ち明けてくれたのは、秋が深まりゆく頃だった。
「……俺、アメリカのアイビーリーグに挑戦してみようと思ってるんだ」
その時、私は初めてアイビーリーグという言葉を聞いた。なんでも、アメリカ東海岸にある超一流の名門私立大学8校のことを言うらしい。