あの日、あの桜の下で



彼が私のことを気にかけなくて済むように、自分の進むべき道を邁進できるように……、私も私の進むべき道を決めて、それに向かって頑張っている姿を見せなければならない。


「尊くんが頑張ってるから、私も頑張る」


彼にそう宣言して、私も脇目を振らずに自分の受験勉強に打ち込んだ。


本当は、一緒に勉強したいところだったけれど、彼と私はレベルが違いすぎるし、勉強の内容も違うので、放課後もそれぞれに勉強に勤しんだ。
帰る時間も違ってきて、あの桜並木に立ち寄ることもなくなった。そんな合間でも、メッセージや電話で短いやり取りをして励まし合った。


「小晴!」


聞き慣れた声、聞き慣れた呼び方。渡り廊下の途中で立ち止まると、突然現れた彼に腕を引っ張られた。
小走りで人目につきにくい校舎の陰に連れて行かれて、そこでいきなり抱きしめられた。そして、息つく暇もなくキスを交わす。


「……ビックリした」


キスの後の甘いため息の後、恥ずかしさをごまかすように私が笑うと、


「この頃、全然話せないから……。俺の彼女だって、小晴が忘れてしまわないように」


と、彼も唇を噛んで笑った。


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