あの日、あの桜の下で
きっと、四月になれば、彼は合格通知を受け取るだろう。成功できる見込みがないことには、初めから手出しはしない。彼は自分に対しての分析も、かなり正確に行える人だった。
こんなにも正確無比の人なのに、ただ一つだけ解らないことはやっぱり、こんな私を好きでいてくれることだった。
三月も半ばになったその日、半年振りくらいに、彼の家へ行った。
彼の部屋に入るなり、彼はずっと我慢していたものを解き放つように、私を抱きしめてキスをした。
抱き合ってしまうと離れられなくなる……。
そう思ったけれど、やっぱり想いを抑えられなかった。
静まり返った家の中、ひんやりとした部屋の中で、私と彼の息遣いだけが響く。
一緒にいられる時間を惜しむかのように、私たちは肌を重ねて、お互いの存在を確かめ合った。何も言葉を交わさなくても、お互いの張り裂けそうな気持ちは、響き合うようによく解った。
彼はその日もいつものように、あの桜並木のところまで送ってくれた。
手を繋いで歩きながら、お互いにその手を離せないでいた。離れ離れになる……その現実が目の前に迫って来ているのに、二人のこれからのことは、言い出せなかった。