あの日、あの桜の下で



〝別れ〟を切り出されるのも、『行かないで』と泣いて追い縋りそうになるのも、どちらもとても怖くて、自分を見失ってしまいそうだった。だから私は必死で、現実を直視しないようにした。


「アメリカに行っても、頑張ってね!応援してるから!」


私は敢えて明るい表情を作り、わざと明るい声色を出して、励ましの言葉を贈った。


「……うん。頑張るよ」


彼もそう言って、自分を奮い立たせて笑おうとした。だけど、結局うまくいかず、少し寂しそうな雰囲気を漂わせたまま、私を見つめるばかりだった。



時は、刻一刻と過ぎていき、彼が日本を発つ日程も決まった。彼がこの街を離れるその日は、私の大学の入学式があり、私は見送れないということも分かった。

でも、それでいいと思った。彼が去っていく、決定的な場面は見たくない。このまま、また明日会えるような感覚で遠くに行ってくれる方が、心に受けるダメージが少なくて済む。


そんなふうに、心の中に潜在する痛みを抱えながら過ごしていた時……、桜が開花した。

この桜が散りゆくころには、彼はここを旅立っていく……。

あの川土手の桜並木を、こんな気持ちで眺めることになるなんて思ってもみなかった。



< 24 / 33 >

この作品をシェア

pagetop