あの日、あの桜の下で
〝別れ〟を切り出されるのも、『行かないで』と泣いて追い縋りそうになるのも、どちらもとても怖くて、自分を見失ってしまいそうだった。だから私は必死で、現実を直視しないようにした。
「アメリカに行っても、頑張ってね!応援してるから!」
私は敢えて明るい表情を作り、わざと明るい声色を出して、励ましの言葉を贈った。
「……うん。頑張るよ」
彼もそう言って、自分を奮い立たせて笑おうとした。だけど、結局うまくいかず、少し寂しそうな雰囲気を漂わせたまま、私を見つめるばかりだった。
時は、刻一刻と過ぎていき、彼が日本を発つ日程も決まった。彼がこの街を離れるその日は、私の大学の入学式があり、私は見送れないということも分かった。
でも、それでいいと思った。彼が去っていく、決定的な場面は見たくない。このまま、また明日会えるような感覚で遠くに行ってくれる方が、心に受けるダメージが少なくて済む。
そんなふうに、心の中に潜在する痛みを抱えながら過ごしていた時……、桜が開花した。
この桜が散りゆくころには、彼はここを旅立っていく……。
あの川土手の桜並木を、こんな気持ちで眺めることになるなんて思ってもみなかった。