あの日、あの桜の下で



そして、四月に入って桜も満開になった麗らかな日、彼からあの桜並木に呼び出された。
彼に会うのは怖かったけど、これから長い時間会えないのならば、やっぱりきちんと別れを惜しんでおくことも必要だと思った。


私が桜並木に行くと、彼は桜の花びらが舞い落ちる中、ベンチに座って待っていてくれた。私がそっとその隣に腰を下ろすと、それに気づいた彼は、ほんのりと表情を緩ませて私の手を取った。

それからしばらく私たちは、まるで老夫婦のように、すべての命が光り輝いている春の陽射しの中、手をつないで満開の桜にただただ見入っていた。


そしてふいに、彼が口を開く。


「ちょうど一年前、この桜に誓ったこと、覚えてる?」


「……うん」


私は頷いた。あの日のことを思い出すと、今でも胸がキュンとする。
彼は私を、『一生大事にする』と誓ってくれていた。


「その気持ちは今も変わってないし……君と離れたくない。だから……、実はまだ迷ってるんだ……」


それを聞いて、私の心がドキンとさざ波を打った。


「『迷ってる』って……、どういうこと?」


「アメリカに行くこと。君がもし俺に、日本にいてほしいって思ってるなら、……
俺は行かないつもりだ」


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