あの日、あの桜の下で
彼の言葉が、大きな楔となって私の胸を貫いた。彼がこんなことを言い出すなんて、とても信じられず、私は自分の耳を疑った。
私が混乱して何も発せられずにいると、彼は真剣な目をして私に問いかけた。
「……君に決めてほしい。君はどう思ってる?」
その目を見て、私は思った。彼は本当に心から、私のことを愛してくれているのだと。
〝私のため〟ではなく彼自身の〝想い〟のため、彼だからこそ手に入れられたチャンスを手離そうとしている。
今ここで、私の心のすべてを吐露して『行かないで』と言えば、きっと彼は行かないでいてくれるだろう。
……だけど。……だけど。
彼はとても頭がいいのに、こんなに簡単な問題に間違った答えを出そうとしている。
その判断を歪ませているのは、私。
私は、彼の側にいてはいけない――。
切なさのあまり、心が悲鳴を上げていた。目の奥から涙が湧き出してきそうになる。でも私は、その涙を必死で堪えて、覚悟を決めた。
「私は尊くんの夢を知ってるから、引き止めることなんてできないよ。世界で活躍する人になりたいと思ってて、尊くんはそれを実現できる力のある人なんだから、日本に帰って来たいなんて思っちゃダメ。尊くんの夢は私の夢でもあるから、叶えてほしい」