あの日、あの桜の下で
私は彼の目をまっすぐ見つめて、しっかりとした口調で、努めて冷静に私の考えを彼に伝えた。それも、私の中にずっと存在していたもう一つの信念だった。
「ずっとずっと、私が生きてる限り、尊くんを応援してるから……」
その言葉の中に〝別れ〟を読み取って、私を見つめる彼の目が哀しみで満ちて揺れている。でも、私はにっこりと笑って立ち上がった。
「尊くんも笑って?……そんな顔、思い出してもらいたいの?」
私がそう言うと、彼は唇を震わせながら笑顔を作ってくれた。
それを見て、彼も正しい答えを見つけてくれたと思い……、私は一つ頷くと彼に背を向けた。
涙が目の中でいっぱいになって、輝く陽射しの中で咲き誇る桜の花々も、風に乱れ舞う花吹雪も、なにも見えなくなった。
何度も振り返って、彼に駆け寄って抱きしめてもらいたくなる。だけど、私は家に帰るまで一度も振り向かなかった。
彼の立ち姿。彼の眼差し。彼のかけてくれた言葉。抱きしめてくれる腕の力。私の唇に肌に感じた彼の感触。彼のくれた真心。
彼のすべてを忘れない――。
……でも、もうあの桜並木には行かない。そう、心に決めた――。