あの日、あの桜の下で



だけど、当然のことながら、彼はそこにはいなかった。彼どころか、この並木道はこんなにも桜が咲き誇っているのに、花見をする人もなく、ひっそりとしていた。

一年前の、あの希望に満ち溢れた気持ちと、まるで違う感覚で、私は淡いピンクの桜の梢を見上げた。

柔らかい陽ざしの中、散っていく桜を見ていると、心が震えて切なくなる。あの花びらにこの想いを乗せて、彼に届けてくれたら……と思う。
散りゆく桜の儚さは彼への恋心と通じ合って、私の心を切ない痛みで侵した。


ひとしきり、時間を忘れて桜に見入って、フッと気配を感じて視線を移した時だった――。

そこに、自転車を押しながらこちらに歩いてくる……彼がいた。


「……やあ、……津村さん、だよね?」


声をかけてきてくれたのは、彼の方からだった。
まさか彼が名前を知ってくれているなんて思わなくて、私は息もできなくなる。


「……ここに来れば、君に会えるんじゃないかと思って来てみたんだ」



まるで夢を見ているみたいだと思った。
桜のトンネル、優しく穏やかな空気の中、ずっと心に描いていた人が立っていて……、

その人が私のことを「好きだ」と言ってくれた……。


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