あの日、あの桜の下で
人気者
二人でいる時間は、あの桜の下に漂う空気のように、とても穏やかだった。
少しずつお互いのことを話して、少しずつお互いのことを知っていって……。
彼のアメリカで過ごした幼いころの話は、私にとってはとても新鮮で楽しかった。それに引き換え、私の生い立ちは本当に平凡で、取るに足らないようなものだったけれど、彼はいつも微笑みながら聞いてくれたし、私のことは何でも知りたがった。
二年生になって、彼とは同じクラスになれた。少しでも近くにいられて、些細な日常も共有することができて、私はもちろん嬉しかったし、彼もとても喜んでくれた。それどころか、彼は私と付き合っていることを、周りに隠すことはしなかった。
そして、私たちが付き合っていることが次第に周囲に知られるにつれて、異変が起こり始めた。
「なに、あの子。全然芝原くんと釣り合いがとれてないじゃない」
「身の程を知るべきよね」
やはり人気者だった彼には、密かに想いをかけていた子がたくさんいたらしい。そんな陰口を言われていることは、私の耳にも、そして彼の耳にも届いていた。
言うなれば彼は、崇高すぎて〝誰も手を出してはいけない存在〟だったらしい。