あの日、あの桜の下で



「…でも、それじゃ、尊くんが……」


ボクサーパンツ一枚だけの姿になってしまった彼を、私が心配すると、


「俺は、男だからコレで大丈夫!」


と、彼はそのままの姿でグラウンドへ走って行ってしまった。



その後、グラウンドは大騒ぎになった。
下着一枚でサッカーをする彼の姿に、生徒たちはもちろん先生までもが唖然となった。


「おい!二年の芝原がターザンみたいな格好で、走り回ってるぜ!」


それでなくても有名な彼は、全校生徒の注目の的になり、彼が出場する試合には人だかりができた。

ようやくこの騒ぎのことが生活指導の先生の耳にも入ったらしく、血相を変えてやって来た。他のTシャツやジャージを着るように言われたけれども、彼は頑としてそれを受け入れなかった。


本当に、まるでターザンのような彼に鼓舞されて、私たちのクラスは総合優勝をした。表彰式の賞状を受け取りに出た彼の姿に、校長先生も驚いて目を丸くする。


「どうして君は、そんな姿をしてるのかね?」


訳を訊いた校長先生に、彼は向き直って一礼した。


< 9 / 33 >

この作品をシェア

pagetop