そばにいて
マンションの自分のウチに着いてインターフォンを押す。
自分ちのインターフォンを押すのはあの頃以来。
妙に緊張した。
『はい』
当然、あの頃とは違う女性が対応してくれる。
「あ、甲田です」
俺もあの頃とは違い、名字を名乗った。
ドアの向こう側でガチャガチャしている音が聞こえてくると、一瞬彼女が出てくるような錯覚すら覚えるけれど出てきたのは町田さんだ。
「おかえりなさい」
軽い眩暈を起こしそうになった。
清楚でか弱そうで、だけれども芯が強い町田さんは彼女とはまるで違う。
だけれども、重なって見えた。
「……ただいま」
胸に巣食うなにかに気づかないふりをした。
俺はちゃんと笑えているだろうか。
「ミキちゃん、今寝てます」
「あ、そう。ありがとう、今日は助かったよ」
「いいえーとんでもないです。ミキちゃん、病院にかかれてよかったですね」
「うん」
町田さんと会話をしながら、リビングへ向かう。
家の中は部屋の明かりがついていてほんのり暖かみも感じる。
いや、灯りのせいだけじゃない。
待ってくれていた人がいたから、暖かいんだ。
そして、まざまざと気づかされる。
ミキがいてくれるといっても、俺は独りがたまらなくつらかったのだと。