そばにいて


目の前に座る彼女。

ウチで女性と食事をすることなんてもうないと思っていた。

心が躍っている。
だけれども、それを失笑しているもう一人の俺がいた。


「ミキどうだって?」

「はい。しばらく点滴に通わなくちゃいけないみたいです」

「え」

「私、明日から代わりにいきますよ!」

「いや、そんなっ」

「今、私の仕事ゆとりあるから、実は有給とるように言われてたんで、明日から入れてるんですよ」

「じゃあ、尚更頼めないよ。予定あるんでしょ?」

彼女は照れくさそうに笑って、
「いえ、どうせ予定ないからちょうどよかったです。甲田さんのお役に立てるなんて」
と言うと目を伏せた。

遠慮がちだけれど、相手にノーと言わせない芯の強さがある。

それにそんな申し出は願ったり叶ったりだ。

だけど、それはミキのためだけに嬉しいと思っているのか。
邪な自分の思いを叱っているもう一人の自分に気づき、表情を引き締めた。

「……本当にいいの?」

そう、これはミキのためだ。

彼女はパッと勢いよく顔を上げ、
「もちろんです!」
と言ってくれた。

「ありがとう」

「どういたしまして」

大輪の花を咲かせるみたいに彼女が笑うと明るくなる。
家の中が色がついたように鮮やかになる。


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