そばにいて


「甲田さん」

か細い声にはっと我に返る。
声のした方を振り返ると、そこには同じ部署の後輩女子社員の町田さん。
もう帰るのだろう、私服姿だった。

険しい雰囲気に気圧されたかもしれない、表情が硬い。
申し訳なく思い、慌てて笑顔を作る。

「あ、どうした?」

「部長が呼んでましたよ。……どうされました?」

「あー、ごめんね。うん……」

俯いてしまった。
話したいような気もするけれど、彼女に聴かせるのも悪いような気がする。

「あ、あのっ」

彼女の躊躇うような、だけれども一歩踏み込んでくるような口調に思わず顔を上げた。

「私でよかったら話してください。頼りにならないと思いますけどっ、だけど、気分は晴れるかもしれないのでっ」

そう言って目を伏せた。

まつ毛長いな。
でも、イマドキのコみたいにつけまつげをしている様子はない。

そうだな、聴いてもらえれば気分ぐらいは晴れるだろうな。
今夜も残業。
ミキを診てもらえないことの悔しさが少しでも軽くなるのなら。

「ありがとう。じゃあ、聴いてもらおうかな」

そう言うと、彼女は目を見開いて泣きそうな顔で「はいっ」と大きく頷いた。


< 7 / 23 >

この作品をシェア

pagetop