そばにいて
「甲田さん」
か細い声にはっと我に返る。
声のした方を振り返ると、そこには同じ部署の後輩女子社員の町田さん。
もう帰るのだろう、私服姿だった。
険しい雰囲気に気圧されたかもしれない、表情が硬い。
申し訳なく思い、慌てて笑顔を作る。
「あ、どうした?」
「部長が呼んでましたよ。……どうされました?」
「あー、ごめんね。うん……」
俯いてしまった。
話したいような気もするけれど、彼女に聴かせるのも悪いような気がする。
「あ、あのっ」
彼女の躊躇うような、だけれども一歩踏み込んでくるような口調に思わず顔を上げた。
「私でよかったら話してください。頼りにならないと思いますけどっ、だけど、気分は晴れるかもしれないのでっ」
そう言って目を伏せた。
まつ毛長いな。
でも、イマドキのコみたいにつけまつげをしている様子はない。
そうだな、聴いてもらえれば気分ぐらいは晴れるだろうな。
今夜も残業。
ミキを診てもらえないことの悔しさが少しでも軽くなるのなら。
「ありがとう。じゃあ、聴いてもらおうかな」
そう言うと、彼女は目を見開いて泣きそうな顔で「はいっ」と大きく頷いた。