そばにいて
「いや、俺、猫飼ってるんだけどさ。そのコが朝吐いてて調子悪そうだったから、今日定時で上がって病院連れていきたかったんだけどね……」
「そうだったんですね」
「うん」
まるで自分のことのように、一緒に悲しんでくれているのが分かる。
うん、なんだかそれだけで少し気持ちが救われたかもしれない。
「あ、ありがとね、ちょっと楽になったかも。ほら、猫ってよく吐いたりするし、きっと帰ったらケロッとしてるかもしれないし。あ、部長呼んでんだっけ?行かなきゃな」
そう言って立ち上がった瞬間、彼女は俺のジャケットの後ろを摘むようにして引き止めた。
え?
「あ、すみませんっ」
驚いて振り返ると彼女は慌てて手を離した。
「どうした?」
背の高い俺と並ぶと背の低い彼女は俺の胸あたりしかない。
その彼女は顔を上げると、眉毛を八の字にして俺を見上げている。
「もし私でよければ病院連れて行きましょうか?」
「え?」
「あ、図々しくてごめんなさい!ウチは犬なんですけど、実家で飼ってて。だから、甲田さんがつらい気持ちがすごくわかるんです。だからっ」
「いや、でも悪いよ。そんな」
彼女はプルプルと首を横に振る。
「ペットも家族だから」
そう、家族なんだ。
ましてや、ミキは……。
「……じゃあ、お願いしていいかな」
「はいっ」
ぱぁっと花が咲いたみたいに笑ってくれた。
彼女のそんな表情を見ると、“もう七年だろ”と言う俺と“まだ七年だろ”と言う俺がいつもせめぎ合う。