オカンみたいな君が好き
「おい、何してんだ、遅れるぞ」


いつの間にか先を歩いていたトーマが振り返って私を呼ぶ。めんどくさそうに眉間にシワを寄せている。


「あ、待って!」


私は慌てて追いかける。


トーマは、良く言えば世話焼きだ。

だが、言い方を変えたら母親のように口うるさい奴でもある。

それはトーマだけが悪いのではなく、私がちょっと忘れがちだったりドジを踏むことが多いせいでもある。

あほな奴だと自分でも思う。トーマもきっとあほだと思っているだろう。

だけどトーマは私を受け入れてくれている。

まるで家族のように。

どんなにあほで間抜けでどうしようもない私でも、見放したりしない。

それはすごく安心感があって。


私はこの関係に慣れきってしまっていた。


だからときどき、不安になる。


いつかこの関係が終わってしまうんじゃないか、と。


「ったく、遅えよ」


追い付いた私に「何してんだ」とトーマは不機嫌そうに言う。


「べつに遅くないんですけどー!トーマが速いだけなんですけどー!」

「子どもみたいな言い訳だな」

「ムカつく!」


ばかな言い合い。

まるで子どもみたい。


だけど、昔から変わらないこのあほなやり取りが、実はちょっと結構好きなのは、トーマには一生秘密だ。

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