オカンみたいな君が好き
「では前回の宿題です。当たった人は前に出て黒板に答えを書きなっさい」


ええー、と教室がブーイングの嵐。

当然だ、こんなの歓迎されることじゃない。


「うるっさいっ!黙りなっさいっ!」


しかし生徒の心理が理解不能らしいこの先生は不機嫌な顔をして怒鳴り付ける。

先生が怒鳴ったら不服だろうがすぐに黙らなければならない。そうしなければ今日の宿題が倍になってしまうのだ。

みんなそれを分かっているから不服に思いながらも声を押し殺す。

ようやく教室から音が消えたところで先生はにんまりと気味悪い笑顔になってひとつ咳払いをすると「それでは当てますよ」と勿体ぶった口調で名前を告げた。


「__田口」


げっ。

クラスメイト達はは自分の名前が呼ばれなかったことに安堵し息をする。

張りつめていた糸がたゆむように。

まるで地獄から掬い上げられたみたいに。

名を呼ばれた者だけが更なる地獄へ突き落とされるのだ。

心臓が痛いくらいに緊張している。


「えー田口、田口。田口!いないのか?田口」


何度も何度も、先生は私の名を呼ぶ。


「はい、います」


私は観念して返事をした。


「なんだ、いるならさっさと返事をしたまえっ」


私はノロノロ立ち上がりながら前回の授業が書いてあるノートを広げて目を見開いた。

心拍数が跳ね上がる。


「田口!さっさと前に出て書きたまえ」


さあ、早く。

先生の声に突き動かされるように、弾かれたように、私はノートと教科書を持って覚束ない足取りで前に進む。

ちらりとトーマの方に目を向けるとトーマは心配そうな顔をしていた。


……ああ、トーマ。

やっぱり私達って幼馴染みだね。

だって、私、トーマの顔を見ただけで、トーマが今何を考えているのか分かっちゃったんだもん。
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