甘えたいお年頃。
第二章 偶然とは必然的に起こるものである。
あの出来事から二週間。
今週末の日程を確認すると、卒業式が入っていた。
他の高校と比べて、なぜか私の高校は卒業式が遅い。
だから、進学先が決まった三年生達はこの時まで自由に髪を染めたり派手な格好をすることができないのだ。
アルバイトもまた然り。
不自由な高校だとつくづく思う。
「あーあ……先輩行っちゃうなあ……」
「何言ってんの、来年は私達だよ」
「やめてよそういうの!」
グループの輪から外れて、深月は私の机にうなだれていた。
会話が疲れた、とかなんとか言ってきたわりに、さっきからずっと話しかけてくる。
私はこの間発見した恋愛小説を読むためにスマホに目を向けたまま応対していた。
「七時間目の学活歌の練習だってさ。やだなあー……」
「深月歌えるじゃん」
「それをいったら深鶴だって……」
画面をスクロールして文章を読んでいく。
やたらと改行の多い書き方をするなあとがっかりしながら眺めていると、一つの文に目が止まった。
『もしかして、この偶然は、必然だったんじゃないかな。』
「……必然ねえ」
「ん? どうかした?」
「いや……いいや。ところで一時間目なんだったっけ」
「生物基礎じゃない?」
「あーそうだった」
私はスマホを機内モードにしてリュックにしまい、生物室へと足を運んだ。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥
偶然。
実際尚人を初めて見たのはあの店だった。
普段その店はおろか、中心街に近寄ることさえしない私だから、誕生日パーティが無ければ出会うこともなかったのだ。
けれど、まだそれに必然的なものは感じなかった。
小説の続きはまだなかったが、どうやらその後主人公は好きな男子に告白しにいってしまう気がする。
俗に言う、『フラグ』というやつだ。
まあ当然だろうな。小説だし。
「……る、深鶴!」
「えっ」
はっと我に返ると、クラス全員の視線が私に注がれていた。
あわてて教科書を開くと、教師は大きくため息をつく。
「……お前話聞いてたか?」
「す、すみません……」
「針葉樹林。例えばどんなものがあるか答えろ」
え、とつい声が出た。
まるっきり別のことを考えていたのが露骨に出てしまう。
恥ずかしさのあまり答えられずにいると、深月はあわててそのページを開いて私に見せてくれた。
「えっと……スギ類?」
「類ってなんだ、はっきり答えろ。あと俺に聞くな」
クスクスと笑い声が聞こえる。
これは自業自得だ、仕方ない。
まあいい、と教師はすぐに話の続きを始めた。