甘えたいお年頃。

「最悪……盛大に恥かいた……」
「ま、まあまあ……」


沈む私をいつものように深月がなだめる。
いつもならこんなことしないのに、と呟くと深月もまた意外そうな顔をした。


「ほんと珍しいね? 何かあったの?」
「あー……なんていうか、真面目に考え事しちゃってて」
「考え事って何?」
「一言で言うと『必然』と『偶然』の話」


なあにそれえ、と深月は馬鹿にしたようにけらけらと笑う。
至って真面目に考えていたのにそこまでされるとさすがに癪に障る。
何か言おうとしたが、すぐ近くにあった三組の教室に入ると、深月はそのまま他の友だちの元に走ってしまった。


「……まあ、いっか」


一人でそう言って、私は自分の席に戻る。
一番後ろのその席は、クラス全体を見渡すにはちょうどいい場所だ。
何一つ変わらない教室を見つめてから、すぐにスマホを取り出す。
あの小説を見ると、いつの間にか更新されていた。

主人公は予想通り告白し、無事に好きな人と付き合うことが出来ていた。

『けれど、これは悲劇の始まりだったんだーー』


「え?」
「うん?」
「……うわぁぁああ!?」


突然の不穏フラグ建築。
いつの間にか私のスマホを覗き込んでいた里菜の声。
二つが重なったおかげで心臓が口から飛び出るレベルの驚き方をした私は、またクラス全員の視線を浴びた。

そっと姿勢を直してからスマホの画面をオフにしようとすると、私の机の前にいた里菜はいきなり私の右手を掴んだ。

急にどうした。
顔を上げると里菜の真剣な顔が目に入る。


「深鶴ちゃん」
「はいなんでしょう」
「返事早っ。じゃなくて、ちょっと後で……放課後に話があるんだけどいいかな?」
「いつでも暇なんでどうぞ」


即答すると、里菜は満足したのか、私の手を離してまた皆の輪に戻っていった。


な、何……いや、何……?
私悪目立ちするから黙れとか言うのだろうか。

私はそんなことを考えながら、その日一日を過ごした。
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