甘えたいお年頃。
放課後。
深月は今日はボランティア部の活動があると言ってどこかへ走って行ってしまった。
私は教室で自習をしている数人に混ざって里菜を待っている。
確か里菜はバスケ部のマネージャーをしているはずだから、かなり遅くなるはずだ。
全ての部活が終わるのは午後6時。
それまで私はただ暇を持て余して、あの小説を一から読み直していた。
ちょうどそんな時だった。
「渡海はいるかー?」
前触れもなく担任が教室の後ろのドアから声を掛ける。
「深月なら部活ですけど」
「ああ深鶴で大丈夫だ。ちょっと職員室まで来い」
言われるがままに私は担任の後をついて行く。
途中で廊下をランニング中のバスケ部員とぶつかりそうになった。
ちょうど、里菜はストップウォッチを持って立っているのにも遭遇すると、里菜は私に向かって笑顔で手を振ってくれた。
職員室に入り、担任の机の前までいくと、担任は机の中から紙の束を取り出す。
「げっ……」
「自覚があるんだなお前」
その中から一枚、先週書いた私の小論文の原稿が出てきた。
それと、また新しい原稿用紙を乱暴に私に押しつけると、担任は睨みながら、
「また再提出が笹木先生から出てる。よっぽどだな」
「また……ってこれ5回目じゃないですか!? さすがにOK出ると思ったのに……」
「誤字は無くなったが、今度は内容が薄いんだそうだ。まあ、赤ペンで書かれてるところをよく読むんだな。出来たら俺の所に持ってこい」
「ええ……」
「お前志望校に小論必須なんだろ? 少しくらい気合い入れて頑張れよ」
私に現実を突きつけた。
それを言われてるとさすがに何も言えない。
弱々しく返事をして職員室を出ると、いつの間にか大きくため息をついていた。
小論文は確かに苦手だけど、まさか五回もダメ出しをくらうとは。
里菜を待っている間に書こうか、と考えていると、突然誰かに原稿を奪われた。
「……ひっでえ」
「なっいきなりなん……!?」
赤文字だらけのソレを笑いながら読んでいたのは、あの尚人だった。
驚いて目を見張ると、尚人は視線を私にずらす。
まだ馬鹿にしたように笑うその表情は、この間の無表情とはまた違った印象を与えた。
「……5回も再提出くらっておいて誤字指摘されてるし。……内容もぐちゃぐちゃじゃん」
「うぐっ……分かってるけどさ……」
「……意外。作文苦手だったんだ」
「すみませんね苦手で」
別にけなしてないよ、とは言われたものの、凹む時は凹む。
尚人は私に原稿を返すと、またいつもの顔に戻った。