甘えたいお年頃。
手伝ってくれる、とは言っていた物の、一体どういう風に手伝うのか教えてくれない。
尚人は「教室で待ってて」と言って私を3組の教室に押し込んでから10分ほど、どこかへ行ったっきり帰ってこないままだ。
一体何をしているのか。
……いや、なんで心配してるんだ私は。
暇を持て余して、とりあえず文章のアドバイスに目を通していると、教室の前側のドアが開いた。
顔を上げると、尚人の姿がある。手に数枚のメモ用紙を持っていた。
「遅かったね」
「……そう?」
言うなり尚人は私の前の席の椅子を引いて座る。
「んで、まず小論文の課題から確認させて」
「うん、問題用紙これ。私は3番のやつを選んだ」
「これ要約も入ってんのか……」
尚人はじっくり、課題文と要約の模範解答を見てから頷いた。
「……一番難しいやつ選んだな……?」
「しょうがないでしょ、志望校の出題形式これなんだから」
――
そんな会話を交わしながら、約1時間半。
どうにかそれっぽく文章がまとまり、きっちりと原稿いっぱいまで書ききったところまできた。
「あーーー終わった……」
「……お疲れ」
あとは担任に提出するだけ、というところで脱力し、私は机に伏せて寝るような体勢に入る。
寝るの? とつっこまれるが、それに返すだけの気力もなくなっていた。
「作文って体力消耗する……」
「そんなに? ……まあ、書き慣れてないならしかたないか」
疲れ切った私はそのまま顔を上げることなく眠りたくなってくる。
うとうとしていると、かすかに尚人が動いているような気配がした。
――ふわりと、頭に温かいものが触れる。
目だけを動かすと、自分よりもたくましい腕が、私の頭にのびていた。
……頭を撫でられている。
やっと認識した瞬間、慌てて私は起き上がった。
「な、な……っ!?」
「……ん?」
起き上がった瞬間温かい感触は消え去り、そこにあるのはクエスチョンマークを浮かべる尚人の顔だけ。
「お、おま、なに……」
「……撫でただけじゃん」
「じゃんって、そん、……!?」
どうして私はこんなに緊張してるのだろう。
……耳が熱くなるくらいに?
撫でられただけ。ただそれだけだ。
深月にだってやられることはある。
「……はは」
「笑う!? ここで!?」
「いや……ほんと、面白いから……」
「どこか!?」
「どこって、深鶴の反応が……ふふっ、ふ……」
口元を押さえて痙攣しながら、確かに尚人は笑っていた。
確実に馬鹿にされている。
その事に怒りを感じながらも、何故かその仕草にときめいている自分がいた。