甘えたいお年頃。
ガラリ。
教室の前の扉が開いた。
尚人と同時にそちらを向くと、里菜が立っていた。
里菜は私達の方を見ると、驚いて完全に固まってしまったようだ。
まあ、好きな人が突然教室にいたら誰だって驚くだろうな……。
「えっ、ひ、ひさと、くん……?」
「……何」
部活終わりのジャージ汗臭いからやだなー! とか話してたなそういえば。
適当に結ったのか、少しぐしゃぐしゃのポニーテールをあわてて外し、里菜は教室の中へと入ってきた。
勿論、私達の方に向かって歩みを進める。
「二人とも何してるの?」
「……深鶴の小論文の手伝い」
「っ……そうなんだあ。終われた?」
「まあ……どうにか」
一瞬、私に対して不快そうな顔をした。
深月がプレゼントを渡した時と同じような表情だ。
けれど、すぐに里菜は笑顔を尚人に向け、会話を続ける。
「いいなあ~尚人くんって昔から作文得意だったの? 知らなかったよ」
「……そう」
あれ……?
意外な質問だ。もうとっくの昔に知ってると思ってた。
その後はほとんど里菜と尚人の会話ー一方的に里菜が話しかけているがーーになっていく。
二人の会話には邪魔かな、と私は席を外そうと立ち上がった。
「あ、深鶴ちゃん、あのこと忘れてないよね?」
「ああ……大丈夫。ちょっとトイレ行くだけだから」
そう言って私は教室を出た。
・・・・・・・・・・・・・・・
「はー……」
女子トイレ。
外はいつの間にか暗くなっている。
スマホを見ると、時間はすでに6時を過ぎていた。
ぴろん、と軽快な音が鳴ると同時に、LINEの通知画面が現れる。
『深鶴今どこ?どうせなら一緒に帰らない?』
「うーん……」
正直里菜が私に何を話そうとしているか、未だに見当が付かない。
ただ、少し長くはなるだろうとは予想していた。
私や深月に一瞬向ける、嫌そうな顔。
もしかして、私達双子はよっぽど嫌われているのだろうか。
嫌われる要素を思い浮かべてみるが、自分はともかく深月にそんなものはないような気がして、結局考えるのをやめた。
どうせ攻撃するなら私だけにしてほしい。
……深月は何も悪くない。
『ごめん、今日小論文の再提出で職員室に行かないといけないから
先に帰ってて』
『(´・ω・`) 分かった(´・ω・`)』
『何その顔文字www』
そこまでやりとりして女子トイレを出ると、1組の教室へと戻っていく尚人の背中が見えた。
一瞬尚人は私の姿を見ると、手を振る。
私は浅くお辞儀をして、3組の方へと戻った。