甘えたいお年頃。


教室に入ると、すでに帰る支度を整えた里菜が私を待っていた。
あわてて小論文の原稿をまとめていると、また近づいてくる。

ガン、と何かを叩く音がした。

その振動で、机の上にあった水色の筆箱が床に落ちる。
拾おうとすると、筆箱の前に誰かの足が立ち塞がった。


「……?」


しゃがんだまま、顔を上げると、眉間にしわを寄せた里菜の顔がある。
ぽかんとしていると、彼女は思いきり私の胸ぐらを掴んで無理矢理引っ張り上げた。


「うわっ……!?」
「……馬鹿じゃないの」


いつもよりも低めの声で告げられた。


「彼はうちのものだとか、手出すなとか、そういう事は言わないけどさ! 恋してる友達を応援しようって気はないわけ?」
「……はい?」
「そうやって余裕ぶってる態度がほんっとうにムカつく!」


怒りをにじませた表情で、里菜は控えめの声で私を罵倒した。
本人はおそらく傷つけているつもりでいるのだろうが、私にはただ困惑することしか出来なかった。


「あの、話が見えてこな」
「察しなさいよ! なんで双子揃ってKYなの? 本当にイライラする」


掴んでいた手を離しながら、私にまたそう言った。
正直に言うと、165㎝の私と156㎝の里菜の身長差だと、胸ぐらを掴まれてもなんともない。
制服の乱れを直していると、里菜は話し始めた。


「二人ともさ。うちのこと、本当は嫌いなんでしょ?」
「……なんで深月まで」
「はっきり言ってよ。そうしたら、うちすっきりするから」

「……正直、私は里菜さんが、苦手だけど……」


パーティの帰りの列車で話していた。

友達だから祝う。

その言葉は深月の正直な気持ちだったはずだ。


「深月は、里菜さんのことを友達って言ってたよ」


しん、と周りが静かになる。
私は里菜の方を向いた。

里菜はまた、不快そうな顔をしている。
今の回答に変なところでもあっただろうか?
彼女はため息をつくと、私にむき直して言った。


「じゃあさ。電車でうちがすぐ好きな人変わるだろうから我慢して、なんて普通の友達が言う?」


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