甘えたいお年頃。
「……なんですかいきなり」
「いやあごめんごめん。そんな怖い顔しないでよー」
私が睨むと、彼女はへらへらと笑いながら謝った。
元からこういう性格なのだろう。
「もう決まっちゃったから仕方ないけど……なんで私の名前を出すの」
「えー? あー、それはなんとなく? みたいな? だってー、私だけの意見であんな事言ったら霜月くん絶対やってくんないじゃーん?」
「だからってなんで私が」
「なんとなくーだってばあ」
なんとなくでどうしてこううまくいったのかは尚人の溝知る所だが、それでも彼女はなんとなく、という回答を曲げることはなかった。
「私は泉谷 志穂(いずみや しほ)って言うんだあ。これからよろしくねえ」
もし染めていたとしたら明らかに校則違反な明るい茶髪が揺れる。
サイドテールで右側に結った髪はかなりの長さではないだろうか。
私が名乗ろうとすると、「名前はもう知ってる」と返された。
「まあ、二年間は一緒になるわけだしさあ。仲良くしよー?」
「……わ、分かったよ」
「やったあーよろしくう!」
その直後、教室の外から志穂を呼ぶ声がする。
志穂は私に軽く手を振って、すぐにそちらの方へと向かっていった。
一人になった私はまたスマホを開き、あの小説が更新されているか確認する。
しかし全く進んでいる様子はなく、結局私は机に伏せて時間まで寝て過ごした。
…………………………
その日の昼休み。
「深鶴ー……聞いてよ……」
「ど、どうしたの急に」
明らかに凹んだ様子の深月が私の元に来た。
まさか里菜の話ではなかろうかも身構えていたが、それとは全く別の話らしい。
「私、クラスの委員長任されちゃった……」
「……ああ」
「何その反応!? ひどくない!? もうちょっと残念だったねーとかご愁傷様ーとかないの?」
「えー……深月に合ってるからいいんじゃない?」
「良くないよ!! みんな黙っちゃうし!! 話し合いどころか意見すら出てこないし!! 一応決まったけど」
正直どこのクラスもそうだろう。
急に人が変われば緊張だってする。
むしろその状況で決められた深月はすごい。
ピーピー泣きわめく深月をなだめていると、突然スマホの通知が鳴った。
あわてて開くと、誰かからのLINEの画面がでている。
『2組のLINEグル作ったから追加するね!』
ユーザーネームを見ると、ローマ字で『SHIHO』と書かれていた。
おそらく志穂の事だろう。
誰に私のアカウントを聞いたのかはもう気にしないことにし、すぐに返信を打ち返した。