甘えたいお年頃。
『「私…ずっと、アキラに迷惑かけてた
だから、、、ごめんね」
そういってあたしは、包丁を手首にあてた。』
「……ええー……」
読んで頭を抱える。
この展開はしんどい。
けどなんで主人公急に死ぬんだ。
主人公死んだら話進まないだろ。
委員会、係、その他諸々が全て確定し、授業のオリエンテーションが始まる頃。
多分あれから一週間は経った。
私は今、朝の教室で小説の続きを読んでいる。
昨夜12時に更新されたそれは、さすがに読むには遅すぎる時間だった。
朝学校に着いてから読んでみたものの、まさかの主人公が死ぬ(かもしれない)展開になっているせいで、完全に気分を持っていかれた。
今日1日を頑張る気持ちが萎えた。
大きくため息混じりに「あーあ」と声を発し、スマホをしまう。
「……どうした」
「うわっ! な、何急に」
突然声を掛けられ、すぐに起きあがると、尚人がいつもの無表情でこちらを見つめていた。
「……さっきまでスマホ見てたじゃん」
「あー……ちょっと、小説の展開がさ……」
「……なんとなく分かった」
鬱な気分になった私の前の席に腰掛けると、尚人はスマホを開き始める。
起き上がったものの何もする事がない。
私はまた机でふて寝しようとした。
「……へえ、こんなの読むんだ」
「……んっ!?」
赤いカバーをつけた私のスマホを見ながら、尚人はそう呟く。
あわてて起き上がりスマホを取り上げると、尚人はほんの少しだけつまらなそうな顔をした。
「人のスマホを覗かない!! そして自分のスマホを他人にいじらせない!!」
「……なにそれ」
「人にいじらせるからLINEグルにスタ爆された挙げ句に意味分からん出会い厨みたいな挨拶書かれるんだよ!!」
一週間ほど前、LINEグルに書き込んだ男子達は数名の女子にこってり絞られた。
しかし、尚人は何もなかったかのように、いつも通りの生活をしている。
というか、本人は本当にどうでもいいのだろう。
それは確かに尚人らしい対応でもあった。
ただ、未だに男子達の尚人のスマホいじりは止まっていない。
この間、尚人のスマホのスリープモードを解除したらアダルトサイトが開きっぱなしになっていた事もあった。
『料金 ●万円』と出る表示は明らかに詐欺手口だ。
それでも彼は何も言わなかった。
この場合尚人よりもそのスマホの方が心配だったが。
「……ああ、なんだ。心配してくれてたんだ」
「なっ……そ、そうじゃなくて! その、迷惑じゃないの?」
私がそう言っても、尚人はそれが何が? とでも言いたげな表情をしている。
「勝手に自分のスマホで変なことされて迷惑じゃないのかってことだよ」
「ああ……別に、気にしてない」
「ナンデ!?」
「なんでって……」
気にしてないからだよ、という返事と共に、私は脱力した。
この男は私とはどこか違う考えを持っているのかもしれない。
かもしれないどころか確実にそうだ。
「私が気にしちゃうんだけどそれ……」
「……そっか。じゃあ、今度からやめるように言う」
そう言って尚人は立ち上がる。
時間的にもそろそろ他の人が登校してくるだろう。
自分の席に戻る前に、尚人が私の方を向いた。
「……心配してくれてありがとな」
それだけ言って、戻ってしまった。